Research Topic

高速原子間力顕微鏡を用いたナノバイオイメージングの推進研究

私たち人間は目を使って物を見ますが、目では見えない大切な物がこの世の中にたくさんあります。特に、自分自身を形作る細胞や、その細胞を構成・維持するタンパク質はとても小さいので、目で見ることはできません。この目では見えないタンパク質が異常になり、上手く働かなくなると様々な疾病を引き起こします。したがって、タンパク質が正常に働く仕組みを知ることが健康長寿社会の実現に向けた最重要課題となります。  私たちの研究室では、金沢大学で研究開発された革新的原子間力顕微鏡(高速AFM)を駆使し、様々なタンパク質や細胞が働く姿を撮影することで、その仕組みの解明を目指します。さらに、世界中の研究グループと融合・連携研究を推進することで、がんや生活習慣病などの原因となるタンパク質の姿を観察し、その治療薬の開発につなげることも目指します。

研究概要

Current Projects

Project 1:ゲノム編集ツールCRISPR-Casの分子メカニズム解明

CRISPR/Cas9がDNAを切断する瞬間 
M. Shibata et al. “Real-space and real-time dynamics of CRISPR-Cas9 visualized by high-speed atomic force microscopy.” 
NatCommun. 8,1430 (2017).

近年、生命の設計図であるゲノム情報(DNAの塩基配列)を書き換える「ゲノム編集」技術が注目をあびています。特に、細菌のもつDNA切断酵素CRISPR-Cas9を応用したゲノム編集技術は、基礎研究から臨床応用に至る多岐にわたる生命科学分野において広く利用されています。本研究は、高速AFMを用いることで、CRISPR-Cas酵素群がDNAを認識・結合・切断する一連の様子を動画撮影し、その分子メカニズムの深い理解を目指します。これは、ゲノム編集技術のさらなる高度化へ向けた基盤研究となることが期待されます。

Project 2:革新的原子間力顕微鏡で拓く脳神経科学

海馬神経細胞の活動過程
M. Shibata et al.Long-tip high-speed atomic force microscopy for nanometer-scale imaging in live cells.” 
Sci Rep 5, 8724 (2015).

脳の高次機能である記憶・学習の分子メカニズム解明は生命科学において重要な研究課題の1つです。記憶の解明には、特定の脳領域を対象とする研究、脳の神経回路を対象とする研究、脳を構成する神経細胞を対象とする研究、さらには、その神経細胞を構成するタンパク質を対象とする研究といった階層性があり、最終的にはそれら全ての実験事実を統合・融合して理解する必要があります。本研究は高速原子間力顕微鏡(以下, 高速AFM)を駆使し、脳を構成する神経細胞(マイクロ)と、それらを構成するタンパク質(ナノ)の動態をナノスケールの高空間分解能、リアルタイムの高時間分解能で詳細に観察し、記憶を細胞やタンパク質の動態という事象で説明することを目指します。

Project 3:膜タンパク質の分子作動機構の解明

光受容タンパク質, Bacteriorhodopsinの光励起構造変化
M. Shibata et al. “High-speed atomic force microscopy shows dynamic molecular processes in photoactivated bacteriorhodopsin.” Nature Nanotech 5, 208–212 (2010).
肝細胞増殖因子 HGFのフレキシブルな動態
K. Sakai et al.Macrocyclic peptide-based inhibition and imaging of hepatocyte growth factor.” 
Nat. Chem. Biol. 15, 598–606 (2019).